ビジネスケアラーへの企業対応|課題と実践的な支援策

「優秀な中堅社員が突然、介護を理由に退職した」「仕事のパフォーマンスが落ちている社員がいるが、原因が把握できていない」——こうした悩みを抱える人事担当者や経営者は、今後ますます増えていくでしょう。その背景にあるのが、ビジネスケアラーと呼ばれる労働者の存在です。

本記事では、以下の内容について詳しく解説します。

  • ビジネスケアラーの定義と現状データ
  • 企業が直面する具体的な課題
  • 離職防止・生産性向上につながる実践的な支援策
  • 支援を進めるうえでの導入ステップ

「企業はビジネスケアラーにどう対応・支援すべきか」という問いに対して、経産省の調査データや先進企業の取り組みを交えながら、具体的な解答を提示していきます。

ビジネスケアラーとは何か——定義と現状

ビジネスケアラーの定義

ビジネスケアラーとは、家族や親族の介護・育児などのケアを担いながら、仕事を継続している労働者を指します。高齢の親の介護をしながら働く40〜50代の会社員がその典型ですが、障害を持つ家族のサポートや、育児との両立に悩む労働者も広義のビジネスケアラーに含まれます。

特に介護領域のビジネスケアラーは、少子高齢化の進展とともに急増しており、企業にとって避けては通れない経営課題となっています。

データで見る深刻な実態

経済産業省が2023年に公表した試算によると、ビジネスケアラーによる経済損失は年間約9.2兆円に上るとされています。これは介護離職による労働力の喪失だけでなく、介護しながら働く労働者の生産性低下も加味した数値です。

また、総務省の「就業構造基本調査」によれば、介護をしながら働く雇用者は全国で約290万人を超えており、そのうち年間約10万人が介護を理由に離職しています。さらに深刻なのは、離職者の多くが40〜50代の管理職・中堅層であり、企業にとって最も経験値の高い人材が失われているという点です。

こうした背景から、経産省は「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を2024年に策定・公表し、企業に対して組織的な対応を強く求めています。ビジネスケアラー支援は、もはや福利厚生の「おまけ」ではなく、企業の競争力を左右する経営戦略として位置づけられるフェーズに入ったと言えるでしょう。

企業が直面する3つの課題

課題1:ケアラーの存在が「見えない」

ビジネスケアラー支援の最大の障壁のひとつが、当事者が自ら状況を申告しないという点です。介護や家族のケアに携わっていることを職場に伝えると、「評価に影響するのでは」「迷惑をかけると思われるのでは」と懸念し、黙って抱え込む社員は少なくありません。

その結果、企業側は社内にビジネスケアラーが何人いるのかすら把握できていないケースがほとんどです。実態を把握しなければ、適切な支援策を設計することは難しくなります。

課題2:制度はあっても「使われない」

介護休業や介護休暇などの制度は法律上整備されていますが、実際の取得率は非常に低水準にとどまっています。理由は複数ありますが、主なものとして以下が挙げられます。

  • 制度の存在を知らない、または内容を理解していない
  • 取得することへの心理的ハードルが高い(職場の雰囲気・上司の反応)
  • 介護の長期性から「休んでも解決しない」と感じている
  • 代替要員の確保が難しく、チームに負担をかけることへの罪悪感がある

制度を整備するだけでは不十分であり、使える文化・雰囲気の醸成こそが重要です。

課題3:管理職が対応方法を知らない

ビジネスケアラーから相談を受けた場合、どのように対応すればよいかを理解している管理職は多くありません。「何を聞いていいかわからない」「プライベートな話だから踏み込みにくい」という声はよく聞かれます。管理職が適切な対応を取れないと、ビジネスケアラーは孤立し、最終的に離職という選択をしてしまいます。

企業はビジネスケアラーにどう対応・支援すべきか——実践的な5つの施策

施策1:実態把握のための社内調査(ケアラーサーベイ)

まず取り組むべきは、社内にビジネスケアラーが何人いるかを把握することです。匿名で回答できるアンケート(ケアラーサーベイ)を定期的に実施し、介護や育児の状況、業務への影響、求めている支援などを可視化します。

調査設計のポイントは、単なる実態把握にとどまらず、「この調査結果を元に会社は支援策を検討する」というメッセージを明確に伝えることです。社員が「答えても何も変わらない」と感じれば回答率は上がりません。

施策2:上司・管理職へのケアラー対応研修

管理職が適切に対応できるよう、ビジネスケアラーへの関わり方を学ぶ研修を実施することが重要です。具体的には以下のような内容が効果的です。

  • ビジネスケアラーの定義・現状・よくある悩みの理解
  • 1on1でのヒアリング手法(オープンクエスチョンの活用)
  • 活用できる社内制度・社外リソースの案内方法
  • チーム全体での業務分担調整のアプローチ

管理職が適切な関わり方を知っているだけで、ビジネスケアラーの孤立感は大幅に軽減されます。

施策3:柔軟な働き方の整備

介護や育児には、突発的な対応が求められる場面が頻繁に生じます。そのため、フレックスタイム制度・テレワーク・短時間勤務などの柔軟な働き方は、ビジネスケアラーにとって非常に重要なサポートとなります。

例えば、通院の付き添いが必要な日は在宅勤務にする、訪問介護の時間に合わせて始業時間をずらすといった対応が可能になれば、離職を選択しなくて済む社員が増えます。こうした制度は、ビジネスケアラーだけでなく、全社員の働きやすさにもつながるため、職場全体の生産性向上にも寄与します。

施策4:専門家との連携・外部EAPの活用

社内のリソースだけで対応するには限界があります。外部の専門家(社会保険労務士・ケアマネジャー・EAP事業者)との連携を整備することで、ビジネスケアラーが必要な情報やサポートに速やかにアクセスできる環境を構築できます。

特に、介護保険制度の活用方法や地域の介護サービス情報は専門性が高く、一般の人事担当者が個別に対応するのは難しい領域です。外部専門家との連携窓口を社内に設けておくだけで、ビジネスケアラーの「どこに相談すればいいかわからない」という不安を大きく解消できます。

施策5:キャリアと介護を両立できるという「事例の発信」

制度や相談窓口を整えても、「自分がそれを使ってもいいのか」という心理的ハードルは残ります。そこで有効なのが、社内でビジネスケアラーとして働きながらキャリアを継続している社員の事例を発信することです。

社内報やイントラネット、部署内のミーティングなどを通じて、介護と仕事を両立している社員のリアルな声を共有することで、「自分も相談していいんだ」「制度を使っても大丈夫なんだ」という空気が醸成されます。これはトップダウンのメッセージ発信と組み合わせると、さらに効果的です。

支援を進めるための4つのステップ

  1. 実態把握:社内アンケートでビジネスケアラーの現状と課題を可視化する
  2. 方針策定:経営層がビジネスケアラー支援を経営課題として位置づけ、公式に宣言する
  3. 制度・体制整備:既存制度の周知徹底と、柔軟な働き方・相談窓口の整備を進める
  4. 文化の醸成:管理職研修・事例発信・定期的なフォローアップで、使える文化をつくる

重要なのは、これらを一度きりの施策ではなく、継続的なサイクルとして回していくことです。ビジネスケアラーの状況は変化し続けるため、定期的な見直しと改善が不可欠です。

まとめ——ビジネスケアラー支援は企業の「未来への投資」

少子高齢化が加速する日本において、ビジネスケアラーはもはや一部の社員に限った話ではありません。今後10年で、多くの企業が社員の大部分をビジネスケアラーが占める状況に直面すると言っても過言ではないでしょう。

経産省が2024年に策定したガイドラインが示すように、ビジネスケアラーへの対応は「やれたらいい話」から「やらなければならない経営課題」へとシフトしています。適切な支援策を講じた企業は、離職率の低下・エンゲージメントの向上・ブランドイメージの強化といった多面的な恩恵を得ることができます。

「まず何から手をつければいいかわからない」「社内のビジネスケアラー実態を把握したい」「管理職向けの研修プログラムを探している」——そうした課題をお持ちの企業担当者の方は、ぜひ一度、専門家へのご相談をご検討ください。ビジネスケアラー支援の設計から運用まで、貴社の状況に合わせた具体的なアドバイスをご提供しています。